5・16 「年金法廷」 シナリオ

第1幕 


【 裁判長 】
 裁判長の朝日昇です。ただいまより、年金法廷を開廷します。社会保険庁は本年末に廃止され、2010年1月に日本年金機構が発足します。現在、業務を引き継ぐ作業が進行中です。
 社会保険庁が解体され、年金業務が日本年金機構に移行すると、国民の年金はどうなってしまうのか、国民である原告から日本年金機構の設置凍結を求める裁判が提起されました。 
 今日の公判には、原告代理人として紅弁護士、被告代理人として夕陽弁護士、そしてそれぞれの証人の皆さんが出席しています。まず、原告がなぜこのような裁判を起こしたのかについて、原告代理人より述べてもらいます。


【 原告代理人・紅真理弁護士 】
【1】 原告代理人の紅真理です。原告である国民の代理人として、安心して暮らせる年金制度の確立と記録問題の早期整備、そして、専門性ある職員による安定的な業務運営を実現するために、社会保険庁を廃止して来年1月に、 日本年金機構を設置することは凍結するよう求めます。

【2】 今国民は、格差と貧困が拡大する社会生活の中で、安心して暮らせる年金制度の確立を何よりも求めています。そして、最低限支払った保険料に対応する年金を受け取ることができるように、「宙に浮いた年金」や 「消えた記録」などを一日も早く解明し年金記録を整備することを求めています。ところが、記録の整備はほとんど進んでいません。2009年1月23日の朝日新聞では、年金記録の誤りを訂正するため 業務センターで受け付けた93万6000件のうち、8割近くの73万8000件が未処理で、2008年1月より2008年10月まで未処理件数がうなぎ登りになっていることが指摘されています。
また、記録が統合された後の年金の追加支給では、実に1年以上もかかっています。

つまり、こうした大事な問題や国民の皆さんの権利は、まだ半分も解決していないのが実態なのです。このような状態で社会保険庁を解体してしまっては、記録問題の解決も国の責任も曖昧にされてしまいます。特に、記録が 統合された後の年金の追加支給では、実に1年以上もかかっています。

【3】 社会保険庁の解体・民営化は、グリーンピアをはじめとする保険料の無駄遣いや多額の監修料など一連の不祥事、さらには年金記録問題などを背景として進められています。しかし、実態は、国と企業の責任を縮小し、 国民に負担増を押し付けようとする「社会保障構造改悪」に外なりません。
 こうした構造改悪の流れは既に進められております。
 昨年の10月、社会保険庁解体の第一弾として、「全国健康保険協会」が設置されました。これまで政府管掌健康保険は、中小企業の従業員や家族など約3千600万人が加入し全国一体で運営されていました。しかし、これが、 都道府県単位での財政運営に移行し、今年9月からは、保険料率に都道府県間の格差が導入されることになりました。今後都道府県間で格差の拡大が懸念されます。また、今まで国庫負担であった職員の人件費も、保険料に 転嫁される方向であり、給付金への国庫補助も削減される危険性があり、保険料の値上がりとサービスの低下が予想されます。
これらは国と企業がこれまでの責任を放棄し、地方自治体と国民に責任と負担を転嫁するものであり、私的医療保険への転換など、生命保険会社にとってはビジネスチャンスを拡大させる好機でもあります。

【4】 一方、年金制度については、2004年に政府は100年安心の制度を作るといって、大改悪を行いましたが、100年安心どころか、100年不安の年金大改悪というべきものでした。
それは、 国会の審議なしに毎年保険料を引き上げる一方で、給付水準を自動的に削減する大改悪でした。、株価対策を主要な目的に市場運用の拡大を狙う積立金の自主運用も可能になり、企業の責任回避を目的とした日本版 401Kも導入されるなど、アメリカや財界・大企業の要望に沿った改悪などが行われました。
 こうした状況の中で、無年金者の増大や、世界に例のない25年という長期の受給資格要件など、現状の問題はそのまま放置して、国民に負担ばかり押し付ける政府に怒りが集中しました。
 法案の審議中に明らかになった年金個人情報の漏洩問題では、与党を含む国会議員自身が国民年金保険料を納付していなかったり、加入していないということが発覚し、与党である自民党への批判が集中しました。その後の 参議院選挙で敗北した自民党は、敗因は社会保険庁と職員にあるとばかりに攻撃を激化し、社会保険庁改革を声高に主張しました。
 政府・自民党は、年金制度の改悪に対する国民の不満をはじめ、国民年金の不適正免除、年金記録問題などに対する国民の怒りの矛先を社会保険庁の職員の資質の問題に意図的に集中させました。しかし、問題の背景には、 制度的・歴史的な構造的問題や、相次ぐ度重なる年金記録管理システムの変更にともなって、一貫した記録管理ができなかったという事情がありました。こうした背景事情や複雑怪奇な経過措置などから生じている 困難性が有ることを放置無視し解決を試みることなく、社会保険庁を廃止し、新たに公的年金業務を運営する民間型の公法人「日本年金機構」の設置を定める法案を、十分な審議を行うことなくも行なわずに 強行可決しました。
 来年の1月に発足する「日本年金機構」では、保険料徴収や記録管理、年金給付・相談などが業務ごとに民間委託されます。また、年金機構の職員の数は現在の社会保険庁より3000人を超える大幅な削減が行なわれます。
 しかし、ここに大きな問題があります。
 <1>営利を目的とした民間企業で、安定的な運営が保障され、国民の権利やサービスが守られるのでしょうか。公的年金は、何十年にも渡る加入記録や保険料の確実な管理が必要です。厚生年金や国民年金などの年金情報には、 国民の職歴・年収・配偶者情報、受給者の年金額や金融機関情報など重要なデーターが管理されています。個人情報や保険料の管理などは、国が責任を持ってこそ安定的な制度運営が保障されます。
 民間委託は、こうした業務を行なう業者や従業員が競争入札によって数年ごとに入れ替わることを前提とするものであり、安定的な運営はできません。
<2> しかも、社会保険庁が廃止され、日本年金機構へ移行する過程において、業務に精通した多くの社会保険庁職員が排除されます。複雑な制度のもと運営されている年金業務には、専門的な知識が必要であり、 こうした職員の喪失は国民にとっても大きな損失です。過去に一度でも懲戒処分を受けた職員については、日本年金機構への採用を一律排除するなど、労働法制や国家公務員法に抵触すると思われる不当な採用基準となって います。また、国鉄の分割・民営化同様に、希望者名簿に基づく選別採用の枠組みが形作られ、「改革に後ろ向きである」職員の採用については、厳正に審査するなどと恣意的な職員採用の危険性もあります。
【5】 それでも、国鉄の時には、3年間の清算事業団という猶予措置や、国や地方自治体への受け入れなどが規定されていましたが、社会保険庁の解体・民営化については、そうした措置はまったくありません。きわめて異常な扱いです。
処分理由の多くは、制度的・組織的な問題が根底にあり、職員個人の責任ではありません。年金記録問題検証委員会でも、「組織ガバナンスやコンプライアンス意識の欠如に主因があり、かかる状況を長年放置してきた政府等もその 管理責任を免れない」と根本的な問題点を指摘しています。歴代政府や厚生労働省による職員への責任転嫁であり、断じて許せません。
 社会保険庁を解体し、職員と職員団体を排除すれば、国民が安心して暮らせる年金制度ができるという政府の短絡的な思考は誤っています。年金制度を熟知している職員のもとで安定的・専門的に運営できる仕組みこそが必要です。国民のために、安心して暮らせるだけの年金制度を確立して、年金制度を熟知している職員のもとで年金制度を安定的・専門的に運営できる仕組みを作ることが不可欠なのです。
 日本年金機構に移行してはそうした体制を確保することはできず、逆に問題は大きくなります。老後の命綱である公的年金は制度と組織のありかたを一体的に、幅広く議論を構築する必要があります。いったん来年1月の日本年金機構の 設置は凍結し、国民的な議論を行なうことが必要です。
 以上で意見陳述を終わります。


【 裁判長 】
 続いて、被告代理人の反論を求めます。

【 被告代理人・夕陽沈弁護士 】
 被告代理人の夕陽沈です。被告である国の代理人として、意見を述べます。
 公的年金制度は、国民の信頼を基礎として常に安定的に実施されるべきものであります。しかしながら、その運営を担う社会保険庁については、事業運営に関する様々な問題が生じたところであり、公的年金制度の運営体制を再構築し、 国民の信頼を確保することが不可欠であります。このため、社会保険庁を廃止し、厚生労働大臣が公的年金制度に関する財政責任及び運営責任を担うこととする一方、新たな年金事業の運営業務を行なうために日本年金機構を設置 することとしました。
 日本年金機構では、厚生労働大臣の監督の下に、厚生労働大臣と密接な連携を図りながら、年金事業の運営業務を行なうことにより、年金事業の適切な運営及び公的年金制度に対する国民の信頼の確保を図り、もって国民生活の 安定に寄与することができます。社会保険庁が日本年金機構に移行した場合にも年金事業に何の問題も生じません。また、信頼の確保のためにも、様々な不祥事や労使の癒着がはなはだしい実態を完全に断ち切り、まともな労使関係の 構築のためにも、身分上も公務員から非公務員とし、その報酬・給与及び服務等についても厳しく見直し、国民の信頼回復の基礎といたします。
 そして、競争入札によって年金業務の担い手を民間に開放して、民間のノウハウと効率性を導入します。民間開放・規制改革のトップランナーとして、収納率アップやサービスの向上を目指します。
 一方、年金個人情報の漏洩問題では、興味本位でタレントや政治家のデータを覗き見するなど、およそ情報管理意識のない組織であり、国民年金保険料については、市町村から社会保険庁に移った途端に収納率が低下するなど、 保険主義を原則としている年金制度の基本を理解していないような異常な組織であり、危機意識もないに等しい実態であります。さらには、正規の許可を受けないで組合活動に専従していた「ヤミ専」問題では、労組役員のみならず、 相当数の管理職も加担するなど組織ぐるみの違法行為が横行していたことも明らかになっています。
 こうした体質を一掃させるためにも社会保険庁を解体して民営化し、悪い職員をクビにするしかありません。これは国民の声であり、予定通り、来年2010年1月に日本年金機構をスタートさせることが必要であります。
よって、原告の請求は棄却するよう求めます。
 以上で被告側の弁論を終わります。


【 裁判長 】
今聞いたように、原告と被告でそれぞれ言い分が違っています。原告は、国民が安心して暮らせる年金制度を作るためには、社会保険庁を廃止・解体して日本年金機構に移行することは凍結し、専門的知識と経験をもった 職員を確保した上で、制度の問題を解決することが必要だといっています。また年金機構の様々な問題についても指摘しています。
 一方被告は、問題がある職員と職員団体との関係を断ち切るためにも、社会保険庁を解体し、年金機構に移行させるしかないと言っています。
 どちらの言い分が正しいのか、これから証人尋問を行って、真理を究明します。
 証人として、年金受給者、財界団体会長、社会保険庁職員、そして厚生労働大臣の尋問を行います。皆さん、嘘をいうと偽証罪にあたりますから、嘘はいってはいけませんよ、わかりましたか。
 それでは、原告側証人として、年金受給者である年金太郎さんの尋問を行ないます。先ず、宣誓をしてください。


【 原告側証人・年金太郎 】
 年金受給者の年金太郎です。良心に従って真実をのべることを誓います。


【 原告代理人・紅真理弁護士 】
 あなたは年金者組合の執行役員ですね。年金受給者を代表してお答えいただけますね。

【 原告側証人・年金太郎 】
 はい


【 原告代理人・紅真理弁護士 】
 日々の生活に年金はどのように影響しますか。また改善すべき点はありますか。


【 原告側証人・年金太郎 】
 公的年金受給者は約3400万人。高齢世帯の所得のうち約7割が公的年金であり、うち年金収入のみの世帯が6割を超えています。高齢者は、公的年金に依存して生活しています。
公的年金等控除の縮小・老年者控除の廃止や定率減税の廃止など相次ぐ増税と介護保険・医療保険料の引き上げで、年金受給者の可処分所得が低下しています。物価が上がっても、年金は上がりません。 年金受給者の生活は厳しさを増しています。
無年金・低年金者の生活は特に深刻です。老齢基礎年金だけの人約900万人の年金月額は、約48000円に過ぎません。介護保険の普通徴収の人数から類推すると、月額15000円未満の無年金・低年金者の数は、 300数十万人にのぼります。今求められている内需拡大のためにも無年金・低年金者の救済が必要です。


【 原告代理人・紅真理弁護士 】
 日本年金機構では、公的年金の安定的な運営や権利がきちんと守られるのか、と問題点を指摘されていますが、具体的にはどのようなことですか。


【 原告側証人・年金太郎 】
 プライバシー保護が一番の問題です。年金個人情報には、国民の職歴・年収・配偶者情報、受給者でも年金額・銀行口座などが含まれます。企業の経営情報なども無関係ではありません。最近、三菱UFJ証券の元社員が、 膨大な顧客情報を名簿業者に売却した事件がありました。国の重要な個人情報の管理を営利企業に委ねることには絶対反対です。大切な年金情報などの管理は、国の責任で国が直接行なうべきです。 
 しかも、日本年金機構では、こうした業務を行なう業者を入札によって数年ごとに入れ替わることを前提にしており、安定的な運営が困難です。この先、年金記録問題以上の重大な事故が起こるのではと心配しています。


【 原告代理人・紅真理弁護士 】
  以上で原告代理人からの尋問を終わります。


【 裁判長 】
  被告代理人からの尋問はありますか。


【 被告代理人・夕陽沈弁護士 】
 はい。少子高齢化社会の中で、年金の水準を下げないことには年金制度は維持できません。受給する年金の給付額を改善するのであれば、逆に保険料は大幅引き上げが避けられませんが、いいのですか。


【 原告側証人・年金太郎 】
 そのご指摘は、社会保険方式の現行制度行き詰まりを露呈したものです。現行制度は、「国民皆年金」といいながら、実体がなくなっているのです。収入がなくても、保険料納付を義務付ける仕組みが保険料未納者を大量に作り、 無年金・低年金者を量産しているのです。社保庁の「不適正免除」もそうした背景から生まれたのです。
 全額国庫負担の「最低保障年金」をつくるほかにこの矛盾を解決することはできません。


【 被告代理人・夕陽沈弁護士 】
 年金記録で、こんな杜撰な管理をしていた社保庁を廃止するのは当然ではないですか。


【 原告側証人・年金太郎 】
 社会保険庁の組織も規律も厳しく見直すことは当然です。しかし、一連の不祥事は、ひとり社保庁だけの問題ではないと思います。先ほどすこし申しましたように、日本の公的年金制度の様々な矛盾がそれらの背景にあります。 公的年金の抱える矛盾の責任を負うべきは、政府であり、厚生労働省です。社保庁のみ悪者にして事を終わらせるようなことは許されません。
年金記録問題は、まだ解決も見通しもまったく立っていません。そのうえ、せっかく納付記録が発見されても再裁定に時間がかかり、年金が清算されないままお亡くなりになる高齢者もいます。国民は、これらの早急な解決を 望んでいます。人材がいくらあっても足りない状態です。
ところが、日本年金機構への移行で熟達した社保庁職員が排除されようとしています。私たちはこのようなことを望んでいないことを証言しておきます。


【 被告代理人・夕陽沈弁護士 】
  以上で被告代理人からの尋問を終わります。


【 裁判長 】
  続いて、被告側証人である財界団体会長の手洗富雄さんの尋問を行ないます。手洗さん、宣誓してください。


【 被告側証人・手洗富雄 】
財界団体代表の手洗富雄です。良心に従って真実をのべることを誓います。


【 被告代理人・夕陽沈弁護士 】
 企業経営者として社会保険庁の事態をどう思いますか。


【 被告側証人・手洗富雄 】
 民間企業では考えられないことです。組織的なガバナンスや効率性の観点がまったくなく、職員の怠慢も民間企業ではありえません。民間企業のノウハウを生かし、競争意識を持たせることが重要です。多くの業務を 民間委託することによって、サービスでもコスト面でも改革することが重要です。


【 被告代理人・夕陽沈弁護士 】
 世界同時不況といわれる厳しい経済情勢の中、社会保障として年金の在り方をどう考えますか。


【 被告側証人・手洗富雄 】
 大企業があって国が成り立っているわけで、政府として国際競争力強化の経済対策が重要だと考えます。国民の将来不安を解消するセーフティネットは必要です。そのためにも、基礎年金の財源には消費税をあてる 必要があります。また、報酬比例部分、いわゆる2階部分の年金は、従業員の運用責任で受給額がきまる「日本版401K」に切り替えていくことが必要です。


【 被告代理人・夕陽沈弁護士 】
 以上で被告代理人からの尋問を終わります。


【 裁判長 】
 原告代理人からの尋問はありますか。


【 原告代理人・紅真理弁護士 】
 はい。社保庁の不祥事や記録問題などをいいことに、消費税を増税して年金の財源にすることを主張していますが、社会保険料の企業負担をなくすものではありませんか。


【 被告側証人・手洗富雄 】
 いや、そういうことではありません。消費税はあくまで、「福祉」「社会保障」のためであり、社会保険料負担をなくそうなどという魂胆ではありません…(少しうろたえる)。今回の記録問題を見てもわかるように、 年金制度の抜本的な改善と国民の安心確保のためには、国民が広く負担し、将来の安心に繋がる財源確保のために消費税増税が必要です。


【 被告代理人・夕陽沈弁護士 】
 しかし、消費税を増税し、経団連や経済同友会が提案するように基礎年金の全額を税負担とすれば、これまで3分の2は保険料で負担していたのですから、結果的に企業の負担する保険料も減ることになりませんか。


【 被告側証人・手洗富雄 】
 結果として、そうなる可能性はあるかもしれません。(下をむく)


【 原告代理人・紅真理弁護士 】
 消費税増税によって国民の負担は増えますが、企業の負担は増えますか。最終的に消費者に税負担を転嫁できるところに消費税の特色があるのではないですか。


【 被告側証人・手洗富雄 】
 確かに、消費税が導入されて以来の総額が213兆円で、法人税の減税分が182兆円とか言われていますが…。それは結果であって、消費税は「福祉」のためです。まあ、…よくわかりません。(下をむく)


【 原告代理人・紅真理弁護士 】
 日本年金機構では業務の民間委託が拡大されます。また、社会保険関連施設の売却も進んでいますが、社保庁解体で大もうけを狙っているのではありませんか。


【 被告側証人・手洗富雄 】
 いや、民間活力の活用や国家財政に少しでも寄与することが目的であり、ビジネスの対象にしているわけではありません。あくまで、経済原理にもとづいた基準、入札等を踏まえた対応であり、社保庁だけではなく、 他の公共業務や地方自治体での民間委託など幅広く実施されているものです。郵政では少しやりすぎましたが・・・今回はそういうことはないように努めたいと思います。


【 原告代理人・紅真理弁護士 】
 以上で原告代理人からの尋問を終わります。


【 裁判長 】
  それでは、続いて社会保険庁職員である福祉正義さんの尋問に移ります。福祉さん、宣誓してください。


【 原告側証人・福祉正義 】
社会保険庁職員の福祉正義です。良心に従って真実をのべることを誓います。


【 原告代理人・紅真理弁護士 】
 社保庁職員はまったく働いていないように言われていますが、職場の状況について説明してください。


【 原告側証人・福祉正義 】
 私たちは、年金記録問題の早期解決と、職場への信頼を取り戻すために、現場で連日連夜、休日も問わず、一生懸命働いてきました。
しかし、厳しい職場の状況が続く中で、残念ながら心身の健康を害して長期療養せざるを得ない仲間が沢山います。一方で、職場に迷惑をかけないため、また、雇用への不安等から無理をしている仲間も少なくありません。また、 不本意ながら、職場を去っていく若い仲間も多数にのぼっています。介護や子育てなど仕事や家庭との両立に悩んでいる仲間も大勢います。他の省庁と比較しても長期病休者の発生率やメンタル疾患率が異常に多くなっています。
特に、雇用の問題では、日本年金機構への採用内定は未だに行なわれていません。家族も含め、本当に不安がつのっています。懲戒処分を受けた職員ははなから年金機構を排除されているために、雇用が確保されるのか さらに不安です。また、社保庁では女性職員が多数働いていますが、介護や子育てなどで広域異動ができない人も多く、年金機構の広域異動条件も不安を広げています。


【 原告代理人・紅真理弁護士 】
 記録問題の真の原因は何だと思いますか。


【 原告側証人・福祉正義 】
 年金はもともと国民年金、厚生年金など制度ごとに管理されていましたので、一人で20もの年金番号を持っていた人、生年月日や氏名を偽って届けていた人など、年金に対する関心が薄かった時代には、 様々なケースが生じていました。5000万件という数字にはただただ驚きましたが、こうした年金記録の実態については、1959年の行政管理庁の監察でも早期に改善するよう勧告されていました。これらについては、 いずれ年金をもらう段階できちんと調査すればいい、というのが長年の社会保険庁の方針で、それ以上の異議を差し挟めませんでした。
当時の社保庁幹部の話でも、「いずれ大変なことになる」との指摘がありますが、私たち現場の職員にはまったく知らされていませんでした。
 記録問題検証委員会もこうした歴史的な問題を指摘しています。こうしたことを放置してきた歴代政府・厚生労働省の責任を棚上げにすることはできないと思います。


【 原告代理人・紅真理弁護士 】
 解決のためにはどうしたらいいと思いますか。


【 原告側証人・福祉正義 】
 日本年金機構の人員配置には、記録問題への対応が含まれていません。外部委託などで対応するといわれていますが、派遣や請負をいくら増やしても、記録問題の解決は困難だと思います。
また、記録統合による再裁定などは、複雑怪奇な経過措置等が絡んでいることから、特に専門性が求められており、正規職員の確保とともに、人材の育成が不可欠です。そのためにも、年金機構への移行は凍結 すべきと考えます。


【 原告代理人・紅真理弁護士 】
 日本年金機構では、国鉄の分割・民営化と同じように職員の選別採用の枠組みが形作られ、特に、過去に懲戒処分を受けた職員は一切採用しないとなっていますが、不安はありませんか。


【 原告側証人・福祉正義 】
 懲戒処分を受けたものだけでも約800人、強制措置等の処分では、2000名前後の職員がいます。これらの中には、業務と無関係な交通違反なども含まれています。処分理由や処分の時期などを一切関係なく、 画一的に不採用とすることに納得できません。日本弁護士連合会の意見書でも採用基準の見直しを求めています。
 懲戒処分の多くは、「業務目的外閲覧」「国民年金不適正免除」「服務違反」などが理由とされています。しかし、業務目的外閲覧は、長年、閲覧そのものが禁止されていなかったこと、個人を特定できないカード管理 方式であったこと、研修目的でも業務目的外閲覧が行われていたことなど、社会保険庁による杜撰な管理監督責任が厳しく問われるものです。
また、国民年金不適正免除は、保険方式維持のために収納率アップが至上命題とされる中、損保会社から登用された民間出身長官の大号令が引き金となり、業務命令によって行ったのが実態です。厚生労働省 ・社会保険庁に根本的な責任があると思います。


【 原告代理人・紅真理弁護士 】
 以上で、原告代理人からの尋問を終わります。


【 裁判長 】
 被告代理人からの尋問はありませんか。


【 被告代理人・夕陽沈弁護士 】
 ありません。


【 裁判長 】
 それでは、最後に、厚生労働大臣である格差益三さんの尋問を行ないます。格差さん宣誓を行なってください。


【 被告側証人・格差益三 】
厚生労働大臣の格差益三です。良心に従って真実をのべることを誓います。


【 被告代理人・夕陽沈弁護士 】
 年金記録問題は、職員や労働組合のせいだというがご主張ですね。どうしてそう思うのですか。


【 被告側証人・格差益三 】
 私はこんなところに来ているほどヒマではない。みなさん、新型インフルエンザには十分に注意してくださいね。自己責任ですよ。
国民の大事な年金について記録がとんでもない状況にあった。そして、政府や国家に対する信頼を失わせた。特に、100を超える組合との異常な覚書、とにかく仕事はしない、少しでも楽なほうがいい、およそ 公僕としては考えられないような実態に合った。これには労働組合が深く関与していた。
 覗き見にしても、不正免除にしても、また、覚書にしても国家に対するこれだけの信頼を失わせ、国家に対する裏切りを続けてきた連中を看過することはできない。そういう連中を新しい機構の職員に 採用することはできない。決めたことであり、労働法制上も何ら問題がない。


【 被告代理人・夕陽沈弁護士 】
 年金機構の体制や記録問題の解決で不安の声があがっていますが、担当大臣の所見を述べてください。


【 被告側証人・格差益三 】
 記録問題の整備には、昨年度も補正予算で手当したし、今年度も一定の予算措置を行なった。2000人の派遣職員による対応なども現在進めているところだ。再裁定も500人体制を確保し、3ヶ月程度で支払い できるように指示した所である。まったく心配ない。
 年金機構については、手洗いさんにまかせているので、民間の知恵と工夫でうまくいくと思う。心配ありません。


【 被告代理人・夕陽沈弁護士 】
 以上で被告代理人からの尋問を終わります。


【 裁判長 】
  原告代理人からの尋問はありますか。


【 原告代理人・紅真理弁護士 】
あなたは、一方的に労働組合を批判していますが、労使の交渉・協議が業務運営の円滑化に資していた面もあるのではないのですか。例えば、当局が新たなシステムを導入する際に、 職員と当局の間に立って、調整をしたりと労務担当者のようなことも行なっている。社会保険庁は、こうした労務管理を組合側に委ねることで便宜を得てきたんじゃないですか。


【 被告側証人・格差益三 】
 そういうこともあるかも知れないが、私は知らない。


【 原告代理人・紅真理弁護士 】
 年金記録問題検証委員会は、年金記録について「記録を正確に保管・管理するという使命感・責任感が決定的に欠如していた」、「歴代社保庁長官をはじめとする同庁幹部の責任が最も重い」厚労省幹部に対しても、 「重大な責任がある」と指摘しています。個々の職員の問題や組合の問題に矮小化できない、制度的・歴史的な問題ではないですか。


【 被告側証人・格差益三 】
 確かに制度発足時の経過や歴史を考えるとそういうことも否定はできない。その後の機械導入に伴うデーターの切替や、日常的な業務等における社保庁の怠慢が最大の原因である。財務省が十分な 予算をくれなかったのも事実ではあるが。


【 原告代理人・紅真理弁護士 】
 以上で、原告代理人としての尋問を終わります。


【 裁判長 】
ただいま、それぞれの立場からの証人に対する尋問を終了しました。「民営化」がよいことなのかどうか、裁判官も具体的なイメージをもつことができないために、すでに、他の分野で公共サービスが民営化された ケースで今どうなっているのかを話をしてもらいます。
はじめに郵便局の状況について、郵産労の日巻証人にお願いします。




▲戻る

安心年金つくろう会
〒105-0003 東京都港区西新橋1-17-14 リバティ14ビル3F国公労連内
Eメール:mail@anshinnenkin.com